最高に美味しいパンとはなんなのか。そんな事をテラスで暖かい風の中で、草木が芽吹く気配を感じながら考えていた。
おもむろに私は立ち上がり、夫に何も告げず外へ飛び出した。夫はあさりの砂抜きを眺めているような顔で、私の顔を見ていた。
髪を切りたい。
髪が耳の辺りで叫んでいる。それに共鳴するがごとく、私の自律神経も大いに乱れて乱れ髪。与謝野晶子。だからこそCUTへの欲望を押えられなかったのだ。
九大学研都市駅に位置する「イオンモール福岡伊都」に私は心を奪われていた。1,200円で乱れた私の心を浄化してくれる美容院があるのだ。以前は1,080円だったその美容院は、今は座席が1つ減り、値上がりした。バッグやコートなどをかけるポールが撤去され、代わりに開閉式の対面鏡に荷物を入れるようになり、今風な美容院へと様変わりしていた。私は心で笑ってしまった。「その心、笑ってるね」とはよく言ったものである。
髪を全て切り終えた頃にはすっかり13時になってしまった。完全なる13時である。その後、私は存在しない髪を山姥のように振り乱しながら、お野菜ショップ「わくわく広場」へと足が向いていた。
わくわく広場でいつも通りに、慣れてますよ感・地元民感を存分に見せびらかしながら、卵や野菜をかごに入れていた。
パンコーナーで見つけた糸島
なんとなくパンコーナーを歩いていたら、表示パネルにいる男性がパンを持って、こちらを見ていた。
白糸酒造の酒粕、またいちの塩、伊都物語の牛乳、東福製粉の糸島小麦を使用しているらしい。すべて糸島産である。パンの名前も「ITOSHIMA」。福岡といえば、糸島である。日本=糸島。地球も糸島なのかもしれない。
大きさ的には2斤ある。1,000円(税抜き)は高い。買えない・・・買いたい・・・買いたい・・・大嫌い・・・大好き!パンの前を行ったりきたりしながら、私の中のモーニング娘。はこのパンを購入する決断を下した。
「どこぞのデパートでお買い物したザマス」とでも言わんばかりの雰囲気が漂った紙袋が私の高級気分をアゲアゲにする。
ご丁寧に食べる際のご注意の紙が入っていた。
食べてみる
撮影用にきれいに切って、そして頂きましょう・・・なんて上品な事はせず、バリっと包丁で切ってガバっと口へ放り込んだ。
しっとりとした甘めのバター風味の香りが豊かな楽園を思い起こさせ、目の瞳孔が開いた。
「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」
フランスの画家、ポール・ゴーギャンがタヒチに渡って描いた作品だ。生から死を描いた作品の背景にある南国の楽園タヒチの豊富で新鮮な食で溢れる概念的な楽園に身を委ね、美味を堪能した。
目の瞳孔が開いたまま一心不乱に食べてしまった。永遠に食べられるパンである。永遠とは地球や宇宙が消滅したあとも続くのだ。美味しさが宇宙という物質が無くなってしまった後もずっと、五感の感覚の一つとして永続されるレベルなのである。
デニッシュパンのような装いもある。
しかし、調子に乗って一気に4枚ほど食べてしまったせいで、胃がもたれてしまった。「もうパンなんて食べない」そういう思いが頭によぎったが、翌日にはまた食べたいと思えた。「もう恋なんてしないなんて思わないよ絶対」と槇原敬之は歌ったそうだが、パンにも該当する共通概念なのかもしれない。
切り分けて冷凍にして3日にかけて食べた。やはり、焼かずに何も付けずに食べるのが一番かもしれない。なんどもジャムを塗ったり、スクランブルエッグを乗せたり、などといったような事をイメージしたが、やはりそのまま食べたくなって、そのまま食べた。
私はもう一度、この「ITOSHIMA」を買いたいと思った。これさえあれば、日々における楽しいパンライフが送れるはずだ。
金曜日の夕暮れ時、オレンジ色の光で世界が満たされた庭先のテラスで、夫と一緒にパンを食べた。夫も「美味しいね」と言っていた。
ちなみに私には夫はいない。
ブランジュリ ノアン
本店:福岡県糸島市篠原西1丁目9-10
ブランジュリノアン スタジオ (2号店) : 福岡市西区北原1丁目11-27
福岡県西区の周船寺にも3号店「CONTINUE」という支店がオープンしているようです。
あと、3月10日から福岡県春日市にも4号店「ブランジュリノアン春日店」が開店するようです。
定休日など(急遽定休日になる事もあるようです)、Facebookをチェックしてから行かれた方が良いですね!
ちなみにイオンモール福岡伊都のわくわく広場には私は金曜日に行きました。